PEOPLE & WORKS
PEOPLE
& WORKS
- 深谷-入社19年目-
- 三菱地所・三菱一号館美術館
フィリップス・コレクション展 -
- クリエイティブディレクター/村松秀俊
- コピーライター/岩田純平
- アートディレクター/深谷広明
- デザイナー/柴田萌美
作者の名前を絵画で一部隠すという遊び心が見える展覧会のビジュアル。ポスターをはじめ、展覧会のあらゆるツールのデザインをアドブレーンで担当し、ポスターはTDC(東京タイプディレクターズクラブ)2019に入選しました。企画から携わった室長兼アートディレクターの深谷さんにあれこれ聞いてみました!
インタビュー前
え〜っと、今日は“深谷とプロレスとの出合いについて”のインタビューだっけ?それは小学校5年生のときだから、30年分話さないといけなくなるので、10時間くらいかかるかもしれないけどいいかな?(笑)
・・・。
では、来年の新卒サイトのインタビューを始めさせていただきます!(無視)
選ばれたのは
”予想外”のアイデア
作品のコンセプトを教えてください!
脳内変換ポスター。「ゴッ◯」って音として読んだだけでも、「ゴッホ」ってわかる。「モ◯」はモネだよね。普通の広告物は訴求内容をわかりやすく作るのが定石なんだけど、あえてそこをフックにしたデザインです。
画家の名前を使ったアイデアはどうやって生まれたんですか?
この展覧会は、音楽で言うところのベスト盤じゃないけど、いろんな画家の作品を見られるのが特徴だったので、作品を多数掲載するという案を作るところから始めた。その流れで「名前だけで訴求するのはどうか?」という会話からできたのが、この案なんだよね。
じゃあ、スムーズに決まったんですか?
いや、100%決まらないと思ってた。だって、「ゴッ◯」「モ◯」だからね(笑)これはクライアントに怒られるんじゃないか?という話もしてましたが、でもせっかくなので飛び道具的な案として一応提案しました。その後は別のデザインに決まるはずだったのですが、クライアントの広報の方からボソッと「本当はこの案が面白くて、ちょっと気に入ってるんですよね」というコメントをいただいたので、もう1回出してみることにしました。最初に提案したデザインはもっとシンプルだったんだけど、蛍光ピンクやイエロー、水色とか色味を足してちょっと派手にしてみたら採用になって、こちらがビックリしました。
世に出たときの反応はどうでしたか?
一部では話題になっていたようで、「作った人もすごいけど、採用したクライアントがすごい!」というコメントをSNSで見かけたのですが、その通りだなと。展覧会も評判がよかったですし、TDCに出したら入選するし。あとデジタルサイネージの動画を作ってみたら、交通広告グランプリの最優秀賞にも選ばれていて、色々とビックリさせられる案件でしたね。
ADに求められる役割
アートディレクター(以下「AD」)として、チームをどのように動かしていますか?
仕事が問題なく世に出ることが一番のゴールなので、仕事のスケジュールが出た段階で、制作フローの設計を頭の中で描いて、そのイメージに合わせてチームで作業を進めています。最近の仕事は”スピードと精度”を特に求められるので、日中はみんなで集中して仕事をして、バサッと「今日は終わり!」っていうようにして、なるべくオンオフをハッキリさせるようにしています。疲れた状態でダラダラやるよりも、なるべく頭の中がクリアな状態のほうが、圧倒的に効率がいいので。ADとして「もっとこうしたらいいかな」とかは仕事が終わった後もぼんやり考えています。
元からスケジュールをきちんと立てるタイプでしたか?
仕事を仕切る立場になってから考えるようになったかな。ディレクター職は、船で言うところの船長。 船を漕いだり、魚を捕るのがデザイナーだとしたら、ディレクターとしての船長の判断はめちゃめちゃ大事だと思う。
「どっか行けば、魚が捕れるんじゃない〜?」って、船長がテキトーに指示しても捕れるわけもなくて、「今日は風がこっちに吹いてるからあっちに行こう」「雨が降りそうだから今日の漁は荒れそうだ」「みんな疲れてるからほどほどにして今日は止めよう」「あの地点に行くには何時間かかるな」とか。
ディレクターの向かうべき方向がブレていると、みんな振り回されて、進んだ分をまた戻らなきゃいけない。デザイナーという職業で「100%無駄をなくす」のは無理だとわかっているけど、可能な範囲で上手くハンドリングしたいと思ってる。仕事は毎回条件が違うことも多いので、経験則による判断はかなりあるかな。
難しい仕事ですね・・・。
でもADの仕事って、特殊でアーティスティックな人間がやるものだと勘違いされやすいと思ってる。俺と山浦がランチに行ったときの会話って覚えてる?
覚えてます!
デザインでもディレクションでも、基本は「なるべき形にちゃんとしてあげる仕事」だと思っていて、求められている部分に合わせたアイデアを出す。別に作家じゃないので「天才的なアイデアが降ってくる」みたいなことはそもそも考えてない。例えば、お酒はお酒、ファッションはファッションのトーンがある。自己満にならず、感覚をクライアントに寄せて、何がしたいのか?をヒアリングする意識が大事かなと。むしろそこにヒントがあると思ってるんだよね。
デザインは
かっこいいだけじゃダメ
広告デザインは、一般の人に伝わることが本当に大事だよ。
学生の頃からそういう考えでしたか?
いや。若い頃って「すごくかっこいいもの作りたい!」「素敵なものがいい!」「私がデザインしたものがいい!」とか、どうせ思ってるよね?(笑)
その通りでございます(笑)
自分も同じだったからわかる。かっこよくすることは良いことなんだけど、どこかのタイミングで「かっこいいだけじゃダメなんだ」ってことに気づくんだよね。商品やサービスに寄り添った文脈のデザインじゃないと、本質がズレてるんだよ。その“違和感”に気づくと、自分のデザインが変わってくる。
性質的にかっこいい必要がないものってあるじゃん。その昔、コンビニのおでんのPOPを作ったとき。俺はかっこいいものにしたいんだけど、ならないんだよね。 何か上手くいかない。だっておでんだし(笑)おでんのPOPがちゃんと作れなかった・・・ガ〜ンって、ショックを受けるわけ。
だけど、上司のディレクターはちゃんと商品情報のわかりやすさ、文字の見やすさを押さえたうえで、おでんの温かくて美味しそうなシズル感とか、おでんらしいトーンを表現して作ってたんだよね。そのときに「これがプロと素人の差なんだ」って、気づきがあったことを覚えてます。
デザインの力をつけるには?
デザインで大事だと思うことはありますか?
“原稿として綺麗であること”を覚えておいてほしい。ポスターやPOPとか、それぞれの媒体やサイズで無駄なくスペースを使えていて、ちゃんと訴求ができていて、変に気にならないようなデザインになっていること。昔、代理店のADさんから「良いレイアウトは、写真に見えるんだよ」って言われたことがあって。いろんな要素が違和感なく見えるから、写真のようにスッと入ってくる。そのバランス感覚をつけていくことかな。
どうやって練習すればいいですかね?
とにかく数を作らないと上手くならないかな。俺が若い頃は「デザイナーはレイアウト30案」という裏の業界ルールみたいなものがあって、デザイン事務所によっては「50〜100案は当たり前」だった。最近はとにかく仕事のスピード感が上がっているので、そこまでやってる時間もないけど、自分の中の課題として無理にでも多めにバリエーションを作ったりすることは大事だと思います。
A4サイズに限界まで要素を詰め込む練習をしてみるといいよ。文字の周りに余白を作るために、あと0.1ミリどうすればいいか?を考える。そういう細かい部分に気が回せると、大きい原稿を作ったときもちゃんとできるようになってくるかな。
やってみます!他に日頃から意識していることはありますか?
特にコレというのはないけど、若いときはとにかく現場が自分を鍛えてくれたと思います。自分に足りない部分は年代でも違うけど、「足りない部分を補うにはどうすればいいか?」というのは意識しながら生活しているとは思います。
深谷さんのようにクオリティが高いものを作るためには、何をしたらいいでしょうか?
俺が若い頃は今みたいにネットで色々な情報を簡単に得られなかったので、 自己投資だと思って自分の琴線に触れるようなデザインの洋書や写真集、雑誌とかは高くても買うようにしてました。
たしかにインターネットで情報を調べるクセがあります。
今は何でもネット上で情報を得られるけど、駅貼りや大型のOOHとかも、実際のサイズ感や空間は自分の目で見てリアルに感じることも必要だと思う。「案外大きい・小さい」「この空間は暗い」「けっこう遠い」とか。そういうことを理解して、見る人が見やすいデザインにしてあげることも大事だと思いますね。
こんな後輩と働きたい!
最後に、どんな後輩と一緒に働き・・
プロレスファン!!
趣味が話せる後輩ですね(笑)。一緒に働きやすいという意味では?
若いときは仕事が上手くできないし悩んだりすることも多いと思うけど、一見無駄っぽい仕事でも後で意味が見出せるんだよね。デザイナーの仕事は洒落ているように見えるだけで、“99.9%は地味な仕事”だと思っているので、そこを地道に積み重ねていく努力ができる後輩かな。あと何でも毛嫌いせず、前向きに楽しめる人がいいな。仮に伊藤か山浦にプロレスの仕事が来たとして、「興味ないです!」って言っちゃうと、いやいやいやちょっと待てと。見たことないだけで、実はすっげぇ面白いかもしれないじゃん?
そうですね。いろんな仕事が入ってきますもんね!
本当にそう。いろんな仕事があるのはアドブレーンの良いところだと思う。そういえば昔、女性用下着の仕事をしたことがあるよ。俺は着ないから全く関係ないじゃん?(笑)クライアントから商品サンプルが送られてきて、俺のデスクにブラジャーとかが置いてあって。しかも、デスクの両サイドは女性デザイナーだったし(笑)
想像したら・・・
強烈でしょ?
強烈です(笑)
そんなこともあるから、何でもやっていいんじゃない?やってみたら「あれ? わたし意外とうまくできた!」とか発見があるかもしれないし。
何でも頑張ります!
そういう意味でも、仕事の引き出しをとにかく増やす努力をしたほうがいいかな。学生時代の技術だけじゃ芸が足りなくなってくるから、アップデートは必要だよ。
仕事をただこなす日々だったので、ハッとさせられました。
で、ここからプロレスの話をすればいいのかな? その当時、日曜日の深夜に全日本プロレス中継というのがやっていて・・・
それは・・・第2回戦(またの機会)で!(笑)