PEOPLE & WORKS
PEOPLE
& WORKS
- 葛西-入社21年目-
- 大森-入社4年目-
- 映画「犬鳴村」
(東映・2020年公開) -
- アートディレクター/葛西健一
- デザイナー/内山航平・大森廉
2020年に公開された映画「犬鳴村」。一見普通のホラー映画の宣伝に見えるグラフィックには、ゾッとする秘密が隠されていて・・・?公開前からSNSで話題を呼び、異例のヒットにもつながった本作のポスター。企画から携わったアートディレクターの葛西さんとデザイナーの大森さんに完成までの経緯をあれこれ聞いてみました!
ポスターに隠された恐怖
このポスターはSNSですごく話題になってましたよね!絵に隠された”秘密”を教えていただけますか?
葛西:はい。これはトンネルの中に女性が佇んでいる不気味なビジュアルですが、よく見るとポスターの真ん中に大きな人の顔が隠されています。
気づいたときにゾッとしました・・・!
葛西:ポスターが公開されたときに、この仕掛けに気づく人と気づかない人がいました。でも、10人いたら半分の人が気づけなくてもいいんじゃないかという狙いのもとで作っています。
この仕掛けはどうやって思いつきましたか?
葛西:生まれたきっかけは、社内の打ち合わせですね。リーダーの僕、当時1年目の大森、中堅デザイナーの3人で企画を持ち寄りました。そこで大森が1枚の写真を持ってきたんですよ。風景の一部が人の顔に見える”錯視”の写真で。ホラーとは関係ない写真だったけど、見た瞬間に「いけそうな気がする」と感じました。どうにかして今回のビジュアルに落とし込めないかと3人で意見を出し合いながら、作り上げましたね。
写真を見たときにピンと来ましたか?
葛西:「面白いことになりそうだな」って直感的にすごく思った。でも資料からビジュアルに起こしていく過程では大きく変わったし、いろんな苦労がありました。ちゃんと仕上がったのはみんなの力なんですよ。
大森さんはなぜ錯視の写真を?
大森:東映さんからオリエンを聞いたときに、ターゲットは女子高生で、SNSでバズらせたいという話がありました。若者にバズらせるためにはただ怖いポスターより、何かトリックがあったほうが興味を引くんじゃないかと思って、そういう資料を集めてたんです。
一見関係なさそうなものからアイデアが生まれるんですね。
葛西:その通りです。ホラー映画だからと言ってホラーの世界だけで探すよりは、関係ないところから探ったほうが、化学反応が起きやすい。ジャンル問わず、面白いアイデアを見つけることが大切です。今まで見たことがないものを作るとなると、セオリー通りじゃない発想も必要なので。絵を作る過程でも、実験的な手法を試すことが多いです。
台本なし、撮影なし
素朴な疑問なんですが、ポスターを作るお話が来たタイミングで、映画の内容を全部知ることはできるんですか?
葛西:最初は何も知らされないね。
何も知らない状態で、ビジュアルを作っていくなんてすごいですね・・・!
葛西:だからクライアントへのヒアリングって大事なんだよね。「犬鳴村」はオリジナルの話なので、最初は本当に何にもなくて。どうやら、トンネルが出てくるらしいとかだけで。
大森:台本ができあがっていく過程で、最初に聞いてた内容から関係なくなったものもありますよね(笑)
葛西:そうだね。でも重要なのは「どう売り出したいか?」ってことです。宣伝部と僕らの間で企画の方向性を決めることも、映画の仕事ではすごく重要で、最初にやるべきポイントですね。
大森:僕が難しいなって思ったのが、普段は撮影ありきでビジュアルを考えるじゃないですか?でも「犬鳴村」は撮影することを想定してないんですよね。だからどうやって撮影せずにビジュアルを作れるか、写真素材の合成力も試されました。
え!撮影してないんですか!?
葛西:撮影するときもあるんですけど、ほぼ写真素材ですね。
デザイナーの検証が大変そうですね・・・。
葛西:そう。合成とか絵を作る力もすごく重要だった。
仕事の基本は
コミュニケーション
他の仕事でも葛西さんはアートディレクター(以下「AD」)として制作に関わることが多いと思うんですけど、どんなふうに仕事を進めてますか?
葛西:僕がADとして何を一番重視しているかというと、コミュニケーションなんですよ。「クライアントが何を求めてるのか?」「映画なら作品をどう宣伝したいか?」をしっかり把握しないと仕事は始まらないと思っています。特に最初の打ち合わせがすごく重要で、インタビューみたいな感じでクライアントの思いを引き出すところから始めます。「犬鳴村」で言うと、日本のホラーであること、ターゲットは女子高生、SNSでバズらせたいという戦略がある。クライアントとの情報共有は、最初の重要なコミュニケーションですね。
クライアントと会話する中で、情報を引き出すことも必要なんですね。
葛西:あとは、自分たちがどうやってその思いを実現させるかを考えればいい。2〜3人ぐらいのチームを作って、僕からメンバーにオリエンをする。仕事の度に3〜4ページのオリエンシートを作ります。内容は、クライアントから聞き出したやりたいことや伝えたいこと。映画なら原作の小説もしくは台本を読んで、キーワードや気になるセリフ、アイテム、情景を抜き出す。とにかくアイデアの参考になりそうな要素をシートにまとめます。
すごく手間がかかってますね!
葛西:アイデアは自由に考えてもらうけど、クライアントのやりたいことからずれると意味がないので、決まっていることは”言語化”してチームで共有したほうが、僕は無駄がなくていいと思います。このようなやりとりはすごく気を使っています。
大森さんはどのように仕事を進めますか?
大森:葛西さんのオリエンをもとに、アイデアをいくつか考えて持っていき、そこからみんなで話し合って仕上げていく形です。僕の立ち位置は、先輩が思いつかなそうな斜め上からのアイデアをダサくてもいいから仕上げること。「それいいね」ってなったら、葛西さんにディレクションしてもらいます。とりあえず変なものを持っていくようにはしてます!
ポジションがあるんですね(笑)
葛西:みんなと集まる時間を軸に進むことが多くて、打ち合わせの合間に各自でカンプを作るような感じです。映画の場合は、企画が決まれば時間をかけてきっちりとかっこいい絵を作れます。なのでまずは、企画を固めることが一番だと思っています。
アートディレクターと
デザイナーの違い
葛西さんがAD、大森さんがデザイナーとして仕事に関わっていますが、ADとデザイナーの違いは?
葛西:ADはプロジェクトの顔になるような存在。企画の進め方を決めて、撮影のときは撮影スタッフや役者さんに説明したり指示を出したりする。絵作りの全責任を負っているので、いろんな決断をしていかなきゃいけない。デザイナーと一番違うのは、時間の使い方です。デザイナーならアイデアを考えたり、手を動かしたりとビジュアルを作っている時間が圧倒的に長いと思う。僕の場合は、それと同じぐらい打ち合わせや指示を出したりして人と話してますね。
ADは人に説明する役目が多いんですね。他の人に自分の作りたい絵を言葉で説明するのって難しいなと感じるのですが、どうすれば上達しますか?
葛西:回数を重ねて慣れていくしかないんだよね。僕も言いたいことが伝わらなかったときに、何で伝わらなかったのかな?って反省を繰り返して、自分なりの伝え方を身につけていったかな。人によって話し方は違うので、教科書のようなものはない気がする。でも、相手にわかりやすく伝えたいという気持ちを常に持つこと。その意識があれば上手になっていく。話を聞く力と伝える力は、デザイナーにとってこれから重要になっていくと思います。
今のリモートの環境だと、音声だけで会話をするときが一番難しくて・・・。
葛西:確かにね。でも、会話と違ってメールは自分でコントロールしやすいじゃないですか?空気を読む力が鍛えられると思えば、メールは良い訓練の場かなと思います。
大森:それこそ「犬鳴村」のときも、葛西さんにもらったオリエンシートと照らし合わせて、条件をクリアしてるか?言語化して確認しました。
葛西:チェック項目みたいなものを作ってね。
大森:できあがった絵を自分の言葉で説明するんです。「和オカルト」はクリアしてるけど、「スタイリッシュさ」や「ノスタルジー感」はないな、みたいな。言語化って本当に大事なんだって思いました。
大森さんは葛西さんがADの場合と代理店のADさんと仕事をするときで、何か違いはありますか?
大森:気持ち的にはどちらも同じです。作業の圧倒的な違いは、考えながらやるかどうかですね。例えば、「ここに人を置いてください」という指示があったときに、葛西さんとやる場合はただ置くだけじゃなく、「そもそも人を置くのか?」「人じゃなくて幽霊を置くのか?」みたいなところから考えます。
葛西:タスクというか、優先順位が違うんじゃないかな。代理店のADさんが大森に一番求めてることって「絵作り」なんだよね。ある程度こういうものを作ってくださいっていうオーダーを受けて、それを形にしていく。僕がADの場合は絵作りも求めるんだけど、企画から入ってもらうことが多いから、大森もちょっとADっぽい役割をすることもあります。やることの幅の広さが違うし、どっちが簡単で難しいって話ではなくて、どちらも価値のある仕事をしてる。
大森さんはどちらがやりやすい、楽しいとかはあるんですか?
大森:無心でかっこいいものを作る楽しみもあるし、どうすればクライアントが喜ぶか?葛西さんをどうやって驚かそう?って考えるのも楽しい。それぞれの楽しみがあるなって思ってます。
自分があまり興味のない内容でも楽しめますか?
大森:興味がなくてもやってみたら興味が出るかも知れない。だから、嫌がらずなんでもやるようにしてます。作業によって脳みその使い方を変えると楽しめるんじゃないですかね。地味な作業なら好きな音楽を聴きながらやったりとか。
葛西:若い頃の僕は、つまらないものはつまらないって思ってたんですね。ただ、モチベーションは高かったです。1、2年目の頃って重要な仕事はなかなか振ってもらえない。早くでかい仕事を任せてもらいたい!と思って考えたときに、まず周りの人から信頼されなきゃ駄目だなって気づいたんですよ。資料探しでも、先輩の予想を上回ることを常に目指してた。それができると「お前すごいな」って信頼に繋がっていくんですよ。
私もそういう気持ちを持って仕事に取り組みたいです!
葛西:そもそも僕がデザインの世界を目指したきっかけは、自分が力を入れて作ったものがみんなの予想を超えて「すごいね」って言われる、あの”ざわざわ”する感じが快感で。会社でも自分がやった仕事で周りをざわつかせることを目指してるよ。「犬鳴村」の仕掛けもそうだったしね。
大森:「犬鳴村」のTwitterのざわざわはテンション上がりましたよね!
葛西:トレンドにもランクインしてたしね。
負けず嫌いな先輩の裏話
そういえば、伊藤さんは「牛首村」の制作に参加してるよね?
はい。ティザーグラフィックを制作しました。私のグラフィックを大森さんが動画にしてくださいましたよね!
大森:しましたね!
葛西:これに関してはね、大森と伊藤さんの良さが出てる話があるんだよ。「牛首村」で新人の伊藤さんの案が採用されて僕もすごい嬉しかった。だけど、「伊藤さんの作品は好きだから嬉しい気持ちがある反面、俺はもう3年もやってるのに・・・」みたいな思いを抱えた男が1人いて。(と大森さんを見る)
(笑)
葛西:会う度に「葛西さん、僕(自分の案が選ばれなくて)悔しいです・・・!」みたいなことをずっと言ってるんですよ。よっぽど悔しかったのか、突然「ちょっと葛西さんこれ見てください!」って夜中に動画を送ってきて(笑)見たら、伊藤さんの作ったデータを使った動画で、出来がすごく良いんですよ。そのまま東映さんに送ってみたら、「これ良いですね!」って映像のプロも褒めてくれた。東映さんに求められたわけじゃないのに、納品まで繋がりました。
すごいですね!!
葛西:1人の男の「負けず嫌いな気持ちから生まれた作品」だと僕は認識してます。負けず嫌いなところが仕事に繋がったのが、非常に素晴らしいですね。やっぱり、行動力って重要だよね。自分で「やりたい!」って行動して作ったものは、すごく力強いものになると思うから。
大森:僕も納品できるとは思いませんでした。
こんな後輩と働きたい!
最後に、どんな後輩と一緒に働きたいですか?
大森:元気で明るくてポジティブだったらいいですね。あと、新人らしいフレッシュさがある人もいいですね!明るい人だったら、どんな仕事でも楽しいじゃないですか?
葛西:僕も同じかな。後輩が前向きに食らいついてくる姿を見ると、こっちも全力で応えてあげたいなって気持ちになるんですよ。アドブレーンの場合、個人戦はあんまりないんだよね。グループ戦というかチームで1つのミッションをクリアしていく仕事が多いから。人間性はそれぞれだけど、それを超えて人に「一緒に働きたい」と思わせる信頼関係や心のつながりみたいなものは、会社に20年以上いて、すごく大事だと思いますね。